2011年10月1日土曜日

民主進歩党【十年政綱(マニフェスト)】 国家安全戦略(安保・外交)編


民主進歩党【十年政綱(マニフェスト)】
国家安全戦略(安保・外交)編

Ⅰ.情勢と課題

今後1-2世代にわたってグローバル化の趨勢は発展し続けるだろう。その前提の下で世界は伝統的な国家を基盤とした有形の世界を保ちつつも、通信、資本、貿易、技術、サービス、人口流動などによって連関が強まり、超大型都市を連結点としたネットワーク社会という無形社会ができあがるだろう。これによって世界各国は政治、経済、社会、文化などの領域において連結が強まり、相互依存も深まることになろう。グローバル化はさらに多くの、複雑な、国家を超えた問題を惹起している。たとえば貧富格差、気候変動、エネルギー不足、経済危機、テロリズムなどといった伝統的なものと異なる安保問題が伝統的な国家という枠組みや政府のガバナンスに大きな衝撃や課題を突きつけている。
グローバル化の趨勢において、世界経済の急速な成長の軸および経済力の流動的な変動によって新興大国が台頭しつつある。これがまた既存の地政学および戦略の枠組みに衝撃をもたらしている。その中で最も注目されている新興大国は中国、インド、ロシアである。こうした新たな変動と趨勢の中で、米国は世界唯一の超大国でありつつも、米国だけが一極主義的に世界を左右するという力は徐々に弱まりつつあり、不均衡かつ多極的な国際秩序が形成されつつある。新興大国と伝統大国がそれぞれ一極になるべくつばぜり合いを行っている。そして、新興大国と伝統大国が米国とともに世界秩序の決定者となるべく競り合っている。歴史的にみると、新興大国の興隆によって、既存の大国との間でいかなる新しい、複雑な国際秩序がもたらされるかは、不透明である。いずれにせよ台頭しつつある中国はその鍵を握るだろう。
東アジアにおいて、日米安保体制はこの地域の安保の重要な要の石であった。しかし中国の台頭によってこの体制にも衝撃がもたらされ、新たな地域安保秩序形成をもたらしつつある。こうした戦略情勢の発展と変化は台湾が繁栄と発展、民主主義と自由、生存安全などの国家安保目標を維持するために正視すべき客観情勢である。歴史的要因によって、両岸は長年にわたって対峙してきた。そのためこの30年来交流の幅が少しずつ拡大しつつあっても対立構造は変わっておらず、単に隠然化したに過ぎない。そこでの鍵は主権問題であり、双方の思想、観念、制度にはより大きな違いがみられる。三十年にわたる交流によって両岸関係は変化し、経済往来の密切の度合いはこれまでに経験したことのないものになっている。しかし思想、観念、制度は歩み寄るどころか、違いはますます大きくなっているのが実情である。
中国は三十年の改革開放を通じて台頭し、世界的なパワーになったという見方もある。しかしながら、政治、経済、社会、文化など各方面にわたって、その将来性は不確実なものだといわざるをえない。政治改革は遅々として進まず、経済発展と国家資本主義化、社会的亀裂と社会矛盾はより深刻になりつつある。毛澤東主義の亡霊は中国の上空を徘徊している。国際社会が注目していることは、台頭しつつある中国が新しい国際秩序の中で「責任をもつ利害関係者」となれるかどうかであり、世界に対して建設的な役割を発揮するか、あるいは拡張主義的な民族主義を鼓吹して「偉大な民族の復興」的な「中国の台頭」を目指すのかということである。中国がそのどちらを選択するかが、地域の平和と繁栄に大きく関係するであろうし、当然ながら台湾の国家安保と発展にも大きな影響を及ぼすことになろう。
しかしながら、2008年馬政権になってから、中国社会の全体的発展が複雑な次元を内包していることを無視して、かつグローバル化社会における台湾とその他の国との交流で持つべき主体性をないがしろにして、中国だけを台湾の安保と発展の唯一の依存対象であり、唯一の道であるかのように錯覚した路線を推し進めている。これは台湾の国家安保と主体性をますます周縁化させるものであり、中国の不確実な発展の「従属変数」に自ら陥れている。このままでは台湾はグローバル化による世界の発展のなかで、「アジアの孤児」になりかねない。

その昔、大航海時代の幕開けとともに、台湾は当時のグローバル化に参加することになった。歴史の流れを見るならば、台湾の生存、繁栄、発展はわれわれが身をおいている歴史的大環境や歴史的舞台を十分に認識できるか、そして参加し、活用できるかにかかっている。現在われわれが身をおいているグローバル化においては台頭する中国という存在、および世界秩序の再編に直面している。そのなかで最も鍵となり、最も大きな変数なのは中国である。それは台湾にとって発展の機会でもあると同時に、台湾の主権問題に対して最も非友好的で、そしてその台頭とともに、その意図と将来性が不透明で不確実な発展段階にある中国と直面しているのである。これは台湾の現在の国家安保と発展に対して大きな課題を突きつけている。
台湾はグローバルコミュニティの一員として、グローバル社会の発展と中国の台頭によってもたらされた機会と課題と問題を正視する必要がある。そして「共同の責任、共同の義務」という考えによってこの大環境の変化を直視し、新しい戦略的思考によってこうした変化に対面し、課題に立ち向かう必要がある。台湾の生存安全、価値尊厳と繁栄発展を守るために、グローバルコミュニティの一員として世界の平和と発展を維持する義務をもっている。この土地で生まれ育った民主進歩党はその責任を背負う必要がある。


Ⅱ.核心理念

台湾は海洋国家であり、対外的に開放、連結、開拓していくという戦略的基調こそが、台湾の繁栄、発展を保障する鍵だと考える。新たなグローバル化における戦略環境の変化に対して、台湾の生存安全、価値尊厳と繁栄発展を維持するために、民主進歩党の国家安保戦略は次のような核心理念を堅持する:

1、正義という世界的理念:台湾は新興民主国家であり、民主主義、自由、人権、環境といった正義の理念を追求することは台湾民主化の主要動力であったと考える。民主進歩党はこう考える。国際および国家安保問題においては、台湾は正義の理念と原則を堅持すべきであり、それを国際交流と協力の基盤とすべきである。そのため、台湾は国際機構活動に参加し、資源を共有する権利があり、また国際協力に参加し、貢献し、国際社会の一員としての責任を果たす義務もある。

2、均衡ある国際関係:台湾の発展は何ものにも阻まれることがない海洋を通じて行われてきた。民主進歩党はこう考える。グローバル化時代の台湾の国際関係は、世界規模および地域の枠組みで広く全体的に考えるべきであり、世界バランス戦略を発展させ、世界のネットワーク社会と直接の結びつきを強め、国際および地域の安保問題に積極的に参加し、地域協力を推進し、台湾の政治、経済、社会、文化、軍事安保ネットワークを強化する。

3、相互利益の戦略思考:台湾海峡両岸には今のところ緊密な経済、社会、文化的往来があるとはいえ、歴史的遺産により、両岸にはいまだに不安定な戦略的対峙状態にある。これは双方がそれぞれ戦略的利益を発展させるうえではきわめて不利益をもたらすだけでなく、アジアの平和に対する不安定要因となっている。民主進歩党はこう考える。地域の平和と安定を維持するためには、双方は歴史的な対立のわだかまりを超えて「和而不同,和而求同(和して同ぜず、和して同じことを求める)」を相互戦略利益を求める戦略思考に向かうことによって、こうした戦略的対立状況を乗り越えるべきである。

4、民主主義の社会的コンセンサス:台湾は多族群が共存する若い移民社会である。社会・国家アイデンティティの対立は、社会的コンセンサスの不安定化をもたらしている。そこで民主進歩党はこう考える。台湾にとって重大な利害に関係する国際・安保政策について、たとえば台湾の前途に関する決定や独立した現状の変更、重要な対外政策の制定と執行などについて、民主的原則および手続きを通じて決定されるべきである。それを繰り返すことによって、民主的社会的合意が形成され、現代市民意識を中核とした社会アイデンティティと国家アイデンティティが形成されるだろう。

5、国家安保の枠組み:台湾は中国からの武力による威嚇、三戦(法律戦、心理戦、世論戦)の脅威を受けているほか、環境に対する脅威、さらに疫病、テロ破壊攻撃など非伝統的な安保的脅威を受けている。民主進歩党はこう考える。これら新旧両型態の安保に対する脅威、台湾の国家安保および人民の生命財産の安全に関する問題に対して、われわれは国民の安保意識を強化し、全国民の心理的防衛を確立し、武力的脅威に対応した安保防衛の枠組みを整備すべきである。



Ⅲ.政策主張

1、正義という世界的理念を堅持し、これを国際交流の基盤とする:台湾は自由、民主主義、人権という正義の理念を追求しており、これこそが台湾と共産党一党支配下の中国との最大の相違点であると考える。民主進歩党はこう主張する。台湾はこうした理念にもとづいて国際社会と交流し、民主化の経験を共有し、進歩的価値を追求し、共通する戦略利益を求める。近年、新たな国際的問題が起こっている。たとえばエネルギー不足、起動変動、環境汚染、貧困、疫病、テロリズムなど。台湾は国際社会の一員として、国際機関の正式メンバーではないものの、国際的義務を果たし、国際協調促進と人類の福祉増進のために、国際的活動に積極的に参加し、貢献すべきである。

2、米国との戦略的パートナーシップ強化:長年にわたって米国は台湾の安保問題において重要な地位を築いてきた。両者の間には、長年にわたる友好的な戦略的協力パートナーシップが存在する。民進党は主張する。台湾はこの戦略的パートナーシップをさらに強化し、戦略的相互信頼・コンセンサスを深め再建する必要がある。各方面にわたって台米相互の利益を強め、台米安保問題に関する交流と制度的な枠組みを強化し、さらに経済、社会、文化的な協力の深みと広がりをより拡大する必要がある。

3、アジア太平洋諸国、特に日本との地域協力関係強化と地域平和の維持:戦略的な地政学および歴史的関係からいって、台湾と日本は緊密な関係にある。そして韓国、ASEAN、インドなどのアジア太平洋諸国は中国の台頭によって衝撃を受けている。そこで民進党は主張する。台湾は日本との関係をさらに強化するとともに、その他アジア太平洋諸国との協力と対話を強化し、ソフトパワーを通じて既存の実務関係をさらに強化し、経済貿易投資の結びつきを強め、公共外交を進め、非政府組織および民間レベルで密接な交流と協力を進め、政治、経済、社会、文化、安保にわたって関係を強め、地域に関係する問題での協力を強化し、ともにこの地域の安保と平和を維持していくべきである。

4、中国とは戦略的相互利益を求め安定的な枠組みを確立:台湾海峡両岸の戦略的対峙状態は主権の問題と関係している。われわれは北京が「一つの中国原則」の立場を改める気がないものと考える。しかし、北京は同時に次の点を理解すべきである。それは台湾人が外来政権の相次ぐ支配および民主化を求めた歴史的過程を通じて、主権の独立を堅持していること、いかなる形態の一党独裁にも反対する政治的意思を持っていることがきわめて確固とした事実であるという点である。民進党はこう主張する。両岸は和して同ぜずの原則にもとづき、和して同じものを求めることによって戦略的相互利益を求め、双方それぞれが平和的に発展するために有利な安定的な枠組みを確立すべきである。

5、両岸の平和安定交流の枠組み確立:両岸の戦略的相互利益のために、交流、対話、違いの調整、衝突の抑制が必要である。民進党はこう主張する。双方は対等、互恵の原則の下、さまざまな次元での対話を通じて、さまざまな次元や側面の問題について、意見を交換し、両岸に関係する問題を解決する糸口を求める。こうした道を通じて、徐々に 多次元・多側面の「両岸平和安定交流の枠組み」が姿を現し、さまざまな問題を解決し、安定的で建設的な相互関係を維持することができるだろう。

6、バランスあるグローバル経済展開の下での両岸経済関係:大航海時代以来、台湾の対外経済関係は外にバランスを求めてきた。民進党はこう主張する。現在のグローバル化の下で、台湾の対外経済戦略は世界的な展開を考えるべきであり、両岸経済関係はあくまでもグローバル化の中での重要な部分であると位置づけるべきである。特に中国の経済発展がますます特権層を中心とした国家資本主義という特殊形態に傾斜しつつあるなかで、台湾はグローバル経済展開の中で、世界各国と同じレベルで中国と往来し、世界各国とともにその特殊な発展形態に対応する必要がある。

7、ソフトパワーにもとづく多角的外交により、国際社会の支持獲得:台湾は権威主義発展途上国から、先進的な新興民主主義国家へと転換することに成功した。経済、理念、文化、科学技術などの領域にわたって、かなり多くの経験を蓄積している。民進党はこう主張する。台湾はこうしたソフトパワーを使い、市民社会の力を活用し、多元外交を進め、国際社会に対して台湾の2300万人が困難な状況のなかで民主化と自由化と正義を求めて成功させてきたことをもっと強く知らせる必要がある。そして国際的な公益活動に参加し、気候変動、環境汚染、貧困問題、疫病などといった国際的な問題で貢献を果たし、国際社会からの支持を獲得すべきである。

8、両岸の市民社会間の多面的な社会的・文化的交流を促進する:台湾市民社会の勃興が台湾の民主化が成功するうえで重要な基盤となった。近年、中国においても市民社会の力が困難な中でも着実に成長する兆しが見えはじめており、将来的には中国がプラスの方向に発展するうえで重要な要素となることが予想される。民進党はこう主張する。台湾の発展において市民社会が演じたプラスの経験を生かして、中国市民社会の発展に注目し、双方の市民社会の多面的・多次元的な社会および文化の領域における自主的交流と対話を促進すべきである。

9、自衛の決意を示すために台湾を防衛するための国防力を強化する。「平和的発展」は世界的な潮流であり、和解協調が現在の主流であるが、「平和」は「発展」に依存していることも事実である。「平和」は決して他人の恩恵によってもたらされるものでなく、国民の自衛の決意と努力によって得られるものである。民進党はこう主張する。台湾の平和と安保のため、台湾は引き続き中国の敵意ある脅威と国土の安全に対するそれ以外の脅威に対する国防体制を発展する必要がある。国防の質の向上を進め、全国民に新しい国防観を涵養し、資源を効果的に統合し、総合戦力を強化し、さまざまな問題への対応能力を高め、国民の生命財産の安全を守る。

10、この地域の安保問題に積極的に参加し、地域安保協力交流を進める:グローバル化の趨勢において、安保問題はますます多国間の協力が必要となっている。民進党はこう主張する。台湾は国際社会に対して、核兵器・生物化学兵器などの大量破壊兵器の開発と所持をしないことを約束する。台湾は国際的な反テロ協力およびネットセキュリティの安全のための協力を進め、国際的人道支援や公海の航行安全の保障などの面で積極的な役割を果たし、アジア太平洋地域の近隣国家との間で広範囲の安保協力を進める。

11、海洋法制を整備し、海洋国家としての位置づけを強化する:台湾は典型的な海洋国家であり、海洋権益維持、海洋資源管理を強化し、《海洋基本法》をはじめとした海洋法制の立法化や改正などを進め、現実の情勢変化への対応を進める。そして効果的管理のために、海洋資源を活用し、海洋権益を防衛し、国際的海事交流・協力を進める。また海洋問題に関する政策決定と執行に関する政府機構の再編成を進める。

12、多国間の対話の枠組みによって協力して海洋資源の開発を行う:台湾の周囲は海洋に面しており、領海面積と隣接区域の面積は国土面積より多い。排他的経済水域はさらに広大である。しかし周辺諸国の関係水域に対する権利およびそれに関係する資源の運用に対する主張には、大きな隔たりがあり、時には衝突を伴うものとなっている。そのため台湾の水域主権および資源活用の権利も日々脅威を受けている。民進党はこう主張する。南シナ海を含む周辺水域の紛争と衝突は利害関係各国による多国間の枠組みによってまずは「主権を棚上げして共同開発する」という精神で、国際法の下で海洋資源開発、海洋汚染防御、海上安全など海洋協力問題について共同・協力して当たるべきである。そのためには多国間の対話の枠組みを設置し、紛争を解決し、海洋資源の持続的利用と海域の平和と安保を共同で当たるべきである。
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